「リトミック」という言葉をよく耳にしますが、具体的に何をするのか、どんなねらいがあるのか、ただ音に合わせて踊ればいいのかなど、疑問はさまざまですよね。
現役保育士が実際の経験を踏まえてリトミック保育のねらいや効果、実例を分かりやすく解説します。保育現場だけでなく家庭でも実践できるため、ぜひ参考にご覧下さい。
ポイント
- さまざまな音楽やリズムに触れて、子どもの想像力や感性を育てること。
- 年齢にあわせた内容と子どもの自由な表現を大切に。
- 子どもといっしょに楽しむ。
- 全員が楽しめるとは限らない
リトミック保育とは?
リトミックはスイスの作曲家「エミール・ジャック=ダルクローズ」が考案した音楽教育法です。近年、保育園や幼稚園で、音楽に触れながら子どもの発達を身体的、感覚的、知的に促す音楽教育として注目され、積極的に取り入れられています。
リトミック保育は音楽×身体表現。さまざまな音楽やリズムに触れて、子どもの想像力や感性を育てることです。幼児期は考える力や感じたことを表現する力を身に付ける基礎となる時期のため、想像力や感性は重要なポイントになります。また、友だち同士、大人とのコミュニケーションの楽しさに気づける、音楽に合わせて体を動かすことで解放感を味わい、体を動かす楽しさを感じられるねらいもあります。
スキンシップを楽しめる
子ども同士や大人とのスキンシップを楽しめます。リトミックは親と子、保育士と子どものように相手と一緒に行うため、膝に乗る、くすぐる、手をつなぐ、抱っこ・おんぶする等、相手とのスキンシップやコミュニケーションの楽しさを味わえるのです。さらにスキンシップは愛着形成や情緒の安定にも繋がります。
想像力・集中力・思考力が育める
リトミックで子どもの想像力・集中力・思考力が育めます。動物まねっこ遊びを例に挙げると、音楽の明るさやテンポ、音の高低、大小の違いで「どんな動物になろうかな」と考えるため思考力や想像力が養われ、意識的に音楽を聴くことで自然と集中力も鍛えられます。
体で表現する楽しさを学べる
踊ったり走ったりして、感じたことを体で表現する楽しさを学べます。大人の真似をしたり決まったダンスを覚える必要はないため、身体表現だけでなくリボンやボール、ハンカチなども取り入れると表現の幅が広がるでしょう。
ボールはリズムに合わせてつく・投げる、キャッチボールをします。ハンカチやリボンは保育士が出す合図に合わせて上に投げたり、ひらひら動く様子を蝶やマントに見立てると子どもの想像力も刺激できます。
静かにする・止まる、ダイナミックに動く・テンポが速い時は走る・ゆっくりなテンポはそろりと歩くなど、「静と動」の体の動かし方など色々な動きを経験できるため、体の動かし方やコントロールの仕方が身に付けられます。
デメリットや注意点
基準や数字に表すことができないため明確な効果を出すことができません、子どもによっては楽しめなかったり、いやな時間になってしまう恐れがあります。様子をみて楽しむことが大切です!子どもが興味を持ったことを育ててあげましょう。
予想外なデメリットとして、音を出すことや動くことが楽しくおうちでも同じようにしてしまうとご近所さんからのクレームになってしまう場合があります。リトミックの決められた方法に捉われず、手遊びや歌遊びであればご家庭でも簡単に取り入れられます。子どもがさまざまな音楽やリズムを楽しいと感じて好きになれば十分です。
リトミック保育を実施する際のポイント
子どもたちとリトミックを楽しむには、意識したいポイントがあるため詳しく解説します。楽器はピアノが望ましいですが必須ではありませんし、活動場所も屋内・屋外どちらでもできます。ただし、ダイナミックな動きを引き出したいのであれば子どもたちの安全に配慮した場所で行うなど、目的や内容にあった場所を選びましょう。
リトミックの第一歩は音楽に触れることです。音楽を聞いたり感じたりする時点でリトミックを経験しているため、リズムに合わせて動けなくても心配いりません。特に年齢の小さい子どもはできなくて当たり前です。最初は大人が思うようにできなくても繰り返していくうちに体で表現できるようになったり、新しい反応があったりするため、子どもの成長を見逃さないようにしましょう。
決まった音楽を繰り返し流す
リトミック保育の始めと終わりは決まった音楽を流しましょう。繰り返すうちに音楽が合図となり、「始まるんだ」と期待感が生まれたり「終わりだから片づけをしよう」と生活習慣の習得にも繋がります。活動のメリハリもつくため、子どもたちの自主性にも磨きがかかります。
年齢に合った内容にする
子どもたちがリトミックを楽しめるように年齢・発達段階に合う内容にしましょう。年齢により体の動かし方や考える力が異なるため、発達段階以上のことは難しいし簡単すぎることは子どもたちにとって面白くありません。0〜1歳児は寝ころびながら保育士や保護者の方と一緒にできる内容にしたり、2〜5歳児は友だち同士のスキンシップを取り入れたりと、子どもたちが無理なく楽しめる内容がおすすめです。
子どもの自由な表現を尊重する
子どもの自由な表現を引き出し、尊重しましょう。決まった踊りを教えるのでなく、表現する楽しさを味わえるのがリトミック保育の醍醐味です。しかし、いきなり「自由に」と言われても戸惑う子どもも出てくるでしょう。上手く表現できずに悩んでいる子どもがいたら、保育士がお手本を見せて子どもたちが表現しやすいきっかけ作りを行い、さまざまな表現を引き出せる環境作りをしましょう。
ピアノや楽器で演奏する
子どもたちの自由な表現に対応できるようにピアノなどの楽器演奏が望ましいです。もちろん、CD等の音源を流すのがダメというわけではありません。生演奏だと子ども達の様子に合わせて進行できるメリットがあるため、保育のねらいに合った方法でリトミックを楽しんでくださいね。
子どもと一緒に楽しむ
何よりも保護者が子どもと一緒にリトミックを楽しむことが大切です。勉強のように何かを教える・学ぶことは主な目的ではなく、子どもがさまざまな音楽やリズムを楽しいと感じて好きになれば十分です。
保育園で行うリトミック保育の実例
実際に保育園の未満児クラスで実施したリトミック保育の例を紹介します。保育園だけでなく、家庭でも簡単に取り入れられるため、ぜひ実践してみてください。
0~1歳児クラスでのリトミック【バスに乗って】
【バスに乗って】は大人の膝の上に子どもを乗せて、歌に合わせて膝を揺らしたり左右に傾いたりとリズムやスキンシップを楽しめるためおすすめです。
0~1歳児は月齢により、発達段階の違いに個人差があるため膝がグラグラ揺れたり左右に大きく傾いたりするたびに、子どもたちは大声で笑ったり、「キャー」と楽しそうな声を上げたりします。大人の膝の上に子どもを乗せて顔が向き合う体勢のため、愛着を深められ楽しい時間が過ごせたとの声を実際にいただいています。
1~2歳児クラスでのリトミック【ぱんだ・うさぎ・こあら】
【ぱんだ・うさぎ・こあら】は子どもたちが動物のイメージを表現したり、保育士の動きを真似したりできるためおすすめです。1・2歳児は想像力が広がり始めると同時に見たものを真似できる段階のため、保育士のお手本を見ながら楽しめます。まずは「うさぎさんのまねっこしてみよう」と子どもたちに呼びかけ、音楽を使わないまねっこ遊びから始めます。そして音楽を使ったリトミックに発展させ、ゆっくりのテンポから始め、慣れてきたらテンポを早くしましょう。
動きの真似だけでなく、保育士の言葉を聞くことに意識を向けるため、レベルアップしたアレンジがあります。まずは、保育士の言葉をよく聞いてほしいと子どもたちに声掛けをして、「パンダ」と言いながらわざと「コアラ」の真似をします。保育士の動きだけを真似すると「コアラ」の動きになりますが、「聞く」ことへ意識が向くと、保育士が言った「パンダ」の動きができます。少し難しいまねっこ遊びですが、子どもたちの集中力が養えるためおすすめです。また、保育園で行う際は、お手本役の保育士と演奏役の保育士に分かれて進行するとスムーズに行えます。
2~3歳児クラスでのリトミック【さんぽ】
【さんぽ】はゆっくりとしたテンポに合わせて円になって歩きながら楽しめる曲です。音のまとまり(フレーズ)を感じられ、保育士の合図(ピアノや笛)で歩く方向を変えたり、違う動きを取り入れられます。フレーズの合間に合図を入れることで、自然と子どもたちのリズム感を刺激できるため、音を聞いて反応できるようになります。また、保育士がピアノを演奏しながら合図を出せるため、他の保育士は子どもの輪の中に入り、一緒に歌を歌いながら子どもたちの様子を見ることが可能です。
3~4歳児クラスでのリトミック【あくしゅでこんにちは】
【あくしゅでこんにちは】は緩やかな静と動の動きがあり、握手を通して友だち同士のやり取りを楽しめるため、2・3歳児の子どもたちにおすすめです。
2・3歳児は友だちと関わり合う楽しさを感じ始める時期です。しかし、恥ずかしくてみんなの輪の中に入れない子どももいるため、友だちと仲良くなるきっかけになるといいですね。友だち同士で関わる機会があると、子どもたちの緊張感もあっという間にほぐれます。子どもたちが慣れてきたら、保育士は輪の中から離れて子ども同士のコミュニケーションを促しましょう。
4~5歳児クラスでのリトミック【あわてんぼうのサンタクロース】
【あわてんぼうのサンタクロース】はフレーズや2拍子のリズムを感じながら、「リンリン」「ドンドン」「シャララン」などさまざまな擬音の表現ができるため、想像力や表現力の幅が広がる4・5歳児におすすめです。
音のリズムを楽しむだけでなく、曲からストーリーを想像する力が鍛えられるため、サンタクロースの気持ちになって楽しめます。「リンリン」「ドンドン」など、擬音の表現の仕方も子どもたちと一緒に考え、手拍子や足踏みといったさまざまな表現を引き出します。子どもたちが想像したものや表現に、保育士がしっかり目を向け、受け止めながら行うのがポイントです。
まとめ
リトミックは音楽に触れながら子どもの感性や表現性を尊重した音楽教育法です。幼児期に重要な人格形成について、リトミックを通して思考力や表現力、友達とのコミュニケーション力などを養えます。年齢別に紹介しましたが、子どもの成長スピードには個人差があります。あせらず本人に合った活動を考えましょう。